医師として働きながらレバレッジ投資をしています。
2021年1月26日、AI(人工知能)が顔写真だけで認知症の9割を正しく判定したというニュースが報道されました。
個人的に画期的なニュースだと思っています。
今回は発表された英語論文の内容を概説します。さらにこの研究の将来性について、医師、投資家両方の視点で解説します。
目次 (クリックでジャンプ)
認知症とは
まず認知症について簡潔に解説します。
主な出典は「認知症疾患治療ガイドライン2017」です。
認知症という言葉はよく耳にしますが、具体的な意味はご存知ない方が意外と多いかもしれません。
1つ以上の認知領域において以前より有意な低下があり、認知欠損により日常生活が阻害される状態。
せん妄の状態のみで起こるものではない。また他の精神疾患によってうまく説明されない。
(DSM-5の要約)
わかりにくいですね(汗)。噛み砕いて説明するとこうなります。
認知症とは、認知機能が衰えて昔できていたことができなくなり、1人で日常生活を送るのが難しくなった状態。
ところで、アルツハイマー病という病気をご存知の方は多いと思います。
中には「認知症=アルツハイマー病」と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、少し違います。
アルツハイマー病:
病理学的には神経原線維変化とアミロイド沈着の2つを特徴とする変化により、脳の神経細胞死が生じ、記憶力低下をはじめとする認知機能障害が緩徐に進行する病気。
認知症の原因疾患の1つ。
認知症:
色々な病気をひっくるめた総称
すなわち、アルツハイマー病は認知症の1つです。
認知症を起こす病気はアルツハイマー病だけでなく、他にも数え切れないほどあります。
アルツハイマー病
脳血管性認知症
レビー小体型認知症
前頭側頭型認知症
正常圧水頭症
脳腫瘍
甲状腺機能低下症
神経感染症(AIDSなど)
欠乏症(ビタミンB1,ビタミンB12など)
その他多数
認知症の症状には個人差がありますが、多くの認知症は進行性の病気でだんだん悪化していきます。
認知症の症状には大きく分けて中核症状と周辺症状があります。
●中核症状
認知機能の低下から起きる症状
例:記憶障害、見当識低下(日付や場所がわからなくなる)、遂行機能障害(段取りを立てられない)、失語など
●周辺症状(行動・心理症状、BPSDとも)
認知症が原因で二次的に生じる症状
例:怒りっぽくなる、妄想、暴力、徘徊、幻覚など
中核症状により日常生活が送れなくなることは問題です。しかし時には周辺症状の方が介護する家族にとって負担となり、疲弊させるケースも少なくありません。
認知症の最大のリスクは加齢であり、残念ながら確実に予防する方法はありません。
日本は超高齢社会で、2020年現在の高齢者の割合は28.7%になります。認知症の高齢者の数は増加の一途をたどっており、重大な問題なのです。
論文の概要
今回のニュースで取り上げられた英語論文はこちらです。
Yumi Umeda-Kameyama et al. Screening of Alzheimer’s disease by facial complexion using artificial intelligence. Aging (Albany NY) 2021 Jan 25;13. doi: 10.18632/aging.202545.
タイトルを訳すと
「AIを用いた顔貌によるアルツハイマー病のスクリーニング」
です。
掲載誌
Agingという雑誌です。Impact Journals社により隔月で出版されていて、老年学のあらゆる側面の研究をカバーしています。
2019年のインパクトファクターは4.831です。
論文のポイント
・認知症患者121名は主に東大病院の老年病科から、認知症のない高齢者117名は主に柏市のコホート研究からリクルートした。
・被験者の顔写真を正面から撮影して背景を消した上でAIによるディープラーニングを行った。
・5つのディープラーニングのモデルのうち、Xceptionが最もパフォーマンスが良かったので採用した。
・認知症かどうかを区別するために”Face AI score”を設定した(高いほど認知症らしい)
・Face AI ScoreはMMSEと有意な負の相関を示した (r=-0.599)。
MMSE(Mini-Mental State Examination):
国際的に認知症の診断で使われる30点満点の検査。
・AIによる認知症の診断力は以下の通りであった。
・顔写真だけで認知症のスクリーニングを行ったのは世界初。
医師としての視点
このシステムが実用化されれば社会の仕組みが大きく変わるかもしれません。それほど画期的な研究だと思います。
大きな理由は、
ということです。
例として、糖尿病と比較してみましょう。
糖尿病には明確で定量的な診断基準があります。
採血で血糖値とHbA1c(ヘモグロビンエーワンシーと読みます)の数値を見て、診断基準に当てはめれば診断がつきます。
ところが認知症ではそうはいきません。
確かに認知症のテストはあります。論文で用いられたMMSE以外にも改定長谷川式簡易知能評価スケールなどがあり、それぞれに認知症を疑う基準となるカットオフ値が定められています。
ただ点数は学歴などの影響も受けるため、糖尿病とは違いカットオフ値で機械的に診断することができません。
そもそも認知症の診断は「日常生活に支障があるかどうか」で決まるので、家族に対する問診も必要です。
また、ある程度進行していれば認知症かどうかの判定は難しくありませんが、初期段階だと専門医でも判断に迷うことがあります。
さらに日常生活の状況を聴取しようにも、一人暮らしで生活状況の把握が困難なケースもあります。
このように認知症の診断にはある程度の時間や人手がかかり、簡単ではないのです。大きな病院にある物忘れ外来は完全予約制で受診までに時間がかかることもあります。
この研究のように顔写真を取るだけなら、非侵襲的で時間もかかりません。広まればコストも下がるかもしれません。
例えば、高齢者の健診の際にカメラで顔をモニターしてスクリーニングを行うことも考えられます。その場で判定を行い、認知症が疑われる場合のみ詳しい検査を行う、さらに専門医につなぐという流れができます。
認知症を早期に発見することで、病気の進行を遅らせる介入を行う、社会資源により認知症高齢者のサポートを行う、成年後見制度を利用して高齢者の財産を守るなどの対策を取ることなどが期待できます。
また、近年高齢者の交通事故が問題になっています。
運転免許を持つ高齢者に対し、よりこまめに認知症のスクリーニングを行い免許継続の可否を判断することも可能になるかもしれません。
投資家としての視点
私は投資もしているので、このニュースを踏まえてどのように投資行動を取るかについても考えたいと思います。
この研究ではAIによるディープラーニングが行われました。今後はあらゆる分野においてAIが活躍する時代であり、ますますの発展が期待できます。
そして、AIには半導体が必須であることを以前記事にしました。
したがって、半導体企業をポートフォリオの一部に組み込むことは有力な選択肢でしょう。
記事で紹介しているSMHであれば半導体企業に分散投資ができ、個別企業の分析は必要ありません。
SOXLならレバレッジをかけられます。ただし半導体は不景気で下落しやすくハイリスクなので慎重に行う必要があります。
もちろん半導体だけに絞る必要はありません。
AIは既に日常生活に欠かせない存在であり、AIと関連の深いハイテク企業の株を買うのもいいでしょう。半導体企業やハイテク企業はS&P 500やナスダック100、全世界株式のETFや投資信託に組み込まれています。インデックス積立を既にしている人は、今まで通り愚直に続ければ十分でしょう。
逆にお勧めしないのは「半導体やハイテクに一切投資しないこと」です。
例えば高配当株投資をしている人はあまり半導体株やハイテク株を持たないかもしれません。これらは主にキャピタルゲインを狙うものであり、利回りが低い傾向にあるからです。
AIの恩恵を逃さないためには、インデックス投資でいいので、ポートフォリオの一部にこれらの株をカバーする投資商品を取り入れる方がよいと思います。
なお、某投資インフルエンサーがやっている「10種類の個別株に無限ナンピンを行う」という手法も、半導体への投資がほとんどできない点に注意する必要があります。
今回は、AIが顔写真だけで認知症を診断したというニュースを取り上げました。
まだ研究段階であり、実用化には様々なハードルが予想されます。それでも社会を大きく変えるかもしれない革新的な一歩であり、将来に期待したいと思います。
投資はくれぐれも自己責任で。
皆様の応援が励みになります。
1日1回、クリック(↓)をよろしくお願いします。
にほんブログ村