東大医学部・医療

アデュカヌマブが承認!アルツハイマー病治療は変わるのか?

カガミルです。
レバレッジETFとビットコインに投資しています。

6月7日(米国時間)、アルツハイマー病の治療薬であるアデュカヌマブ(aducanumab)が米国のFDA(Food and Drug Administration; 食品医薬品局)に承認されました。

(リンク切れの場合あり)

アディカヌマブは、エーザイとバイオジェンにより共同開発された新薬です。

この記事では、アルツハイマー病の基本に触れた上で、アデュカヌマブはどのような薬かをAβ仮説に基づいて解説します。さらに今後の展望についても書きました。

なお結論を言うと

アデュカヌマブは夢の薬とはほど遠い

というのが私見です。

認知症とアルツハイマー病

以前認知症に関する記事を書きましたので、こちらも合わせてご覧ください。

認知症とは、簡単に言うと以下のようなものです。

認知症とは、認知機能が衰えて昔できていたことができなくなり、1人で日常生活を送るのが難しくなった状態。

そして、アルツハイマー病は以下のようなものです。

アルツハイマー病

病理学的には神経原線維変化とアミロイドβ沈着の2つを特徴とする変化により、脳の神経細胞死が生じ、記憶力低下をはじめとする認知機能障害が緩徐に進行する病気。

なおこのアミロイドβは本記事のキーワードですので、心に留めておいてください。

アルツハイマー病と認知症は同じようなものだと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、より正確には、

アルツハイマー病は認知症の1つである

ということになります。

認知症を引き起こす病気は他にも色々ありますが、最も多いのはアルツハイマー病とされています。

日本は超高齢社会を迎えていて、高齢者の割合は2020年現在28.7%、今後も増加することが予想されています。そして、認知症患者は600万人と、高齢者の六人に一人と推計されています。

今や認知症は喫緊の課題なのです。

さて、現時点で認可されているアルツハイマー病の治療薬は以下の4つです。

アルツハイマー病治療薬

アリセプト®(ドネペジル)

レミニール®(ガランタミン)

リバスタッチ®、イクセロン®(リバスチグミン)

メマリー®(メマンチン)

※( )内は成分名

しかしこれらはいずれも根治を目的としたものではなく、進行を少し(半年〜1年程度)遅らせるものでしかありません。

認知症克服を目指し、様々な神経領域の研究が行われてきました。

その中で注目されてきたのが以下に述べるAβ仮説です。そして、その仮説に基づきアデュカヌマブなどの抗Aβ抗体が開発されました。



Aβ仮説とは

2002年に、アルツハイマー病の原因としてAβ(アミロイドβ)仮説が提唱されました。

アルツハイマー病の脳には「老人斑」と呼ばれる異常な構造物が見られますが、それはAβが凝集したものです。

健常者であればAβは短時間で分解されて排出されますが、アルツハイマー病の脳では何らかの理由でAβの凝集が起きてしまいます。
しかも、認知症を発症する20年以上前から脳内にAβの蓄積が始まると言われています。

仮説は以下の通りです。

Aβ仮説

 脳の神経細胞外にAβが蓄積

タウ蛋白のリン酸化が起こる

神経原線維変化が生じる

細胞毒性が生じ、神経細胞が死滅

認知症を発症

専門用語が多くなってしまいましたが、要は、Aβ蓄積がアルツハイマー病発症の原因であるとする説です。

アルツハイマー病研究者

それならAβを取り除ければ、アルツハイマー病は防げるんじゃないか。

それに基づいて開発されたのが、抗Aβ抗体です。

抗体とは

B細胞(リンパ球の一種)から産生される蛋白質。

異物と結合することで、排除する働きを持つ。

体にばい菌やウイルスが入った時、抗体が免疫系の一員として働き病原体をやっつけてくれるおかげで、病気が治ります。

脳のAβを除去する抗体を、人工的に作ればいいのではないか。

こうして生み出されたのが、アデュカヌマブをはじめとする抗Aβ抗体です。

一般的に使われる薬は化合物なのに対し、これらの抗体は「生物学的製剤」の一種です。



相次ぐ失敗とアデュカヌマブ

さて、Aβ仮説に基づいて製薬会社は色々な抗Aβ抗体を開発してきました。

しかしそれらは臨床試験で思うような成績が得られず、ことごとく失敗してきました。

失敗に終わった抗Aβ抗体

バピネオズマブ(ファイザー)

ソラネズマブ(イーライリリー)

クレネズマブ(ロシュ)

ガンテネルマブ(ロシュ)

失敗が相次ぐ中、そもそもAβ仮説が誤りなのではないかという議論もあります。脳にAβが蓄積するのはアルツハイマー病の原因ではなく結果なのでないか、といった意見です。

もしそうだとしたら、抗Aβ抗体の元となる理論が根底から揺らぐことになります。

そんな苦境の中、アデュカヌマブが誕生し、2つの治験が行われました。

EMERGE試験ENGAGE試験です。

これらは、アルツハイマー病の初期認知症またはMCIの患者を対象としたものです。

MCI (mild cognitive impairment)とは:

軽度認知障害のこと。認知症というほどではないが、認知機能テストで客観的な点数の低下が見られる状態。

認知症に移行するリスクが高い。ざっくり言えば「認知症予備軍」

結果については明暗が分かれました。

EMERGE試験では、アデュカヌマブを投与された群で認知症の症状悪化が有意に抑制され、脳内のアミロイドβの沈着が減少しました。

一方ENGAGE試験では有意な効果を認めませんでした。

このように2つのうち1つでしか有効性を示せませんでした。

エビデンスは不十分でしたが、認知症の新薬が長年出ていない中でそれを待ち望む声もあり、FDAにより承認されたのです。

ただし今回は迅速承認という形であり、臨床的ベネフィットを明確にするために新たなランダム化比較試験の実施が求められています。

この試験でベネフィットが確認されなかった場合、FDAは承認を取り下げる手続きを開始することができます。

なお日本ではアデュカヌマブは現在審査中であり、承認されるかどうかは未知数です。

今後の動向に目が離せません。



医師視点から

日本での承認はまだですが、アデュカヌマブが承認されて使えるようになったとしましょう。

そうなったとしても解決すべき問題があります。

・アデュカヌマブは高額であり、すべてのアルツハイマー病患者には投与できない。

・適応となる患者をどのように選ぶかが難題。

アルツハイマー病は有名な病気ですが、診断は簡単ではありません。

アルツハイマー病は神経変性疾患(脳の神経細胞が変性して死んでしまう病気)の1つですが、認知症を起こす神経変性疾患は他にもあります。

例えば、

  • 嗜銀顆粒性認知症(脳に嗜銀顆粒が沈着する)
  • 神経原線維変化型認知症(Aβを欠き、神経原線維変化が見られる)

といったものです。

これらの認知症はAβとは無関係なので、アデュカヌマブは理論上無効です。

しかし、こういった他の神経変性疾患とアルツハイマー病を正確に見分けるのは、認知症専門医でも難しいのです。

本来アルツハイマー病の確定診断は、死後に脳を解剖し、組織にAβやタウ蛋白が蓄積していることを証明しなければならないのです。

もちろん生きている人間にそんなことはできないので、臨床試験の対象となるアルツハイマー病の患者をピックアップするには、主に以下の方法がとられています。

  1. アミロイドPET
  2. 髄液検査

①により、画像でアミロイドβの沈着を示すことができます。

検査の身体的負担は少ないのですが、数十万円と高額な上、保険適応ではありません。主に研究目的で行われています。

②は、髄液中のAβやタウ蛋白の濃度を測定し、基準を満たせばアルツハイマー病と診断するというものです。

ただ、髄液を採取するには腰椎穿刺をしなければなりません。

これは以下のように、横向きに寝た状態で腰椎(腰のあたりの背骨)の隙間に針を刺して髄液を採取するという検査です。

針を刺すときに麻酔はするので痛みはそれほどありません。しかし採血のように簡単にできるものではなく、受ける側は楽ではないですし、合併症のリスクもあります。

どちらの方法を取るとしても、保険診療として行うなら診断にも今以上に医療費がかかることになります。

さらに、アデュカヌマブそのものの薬価も問題になります。

先述した通り、アデュカヌマブは生物学的製剤であり、非常に高額です。まだ保険上の薬価がどのくらいになるか不明ですが、従来のアルツハイマー病治療薬の比ではありません。

アルツハイマー病の患者全員を正確に診断するために検査をして、アデュカヌマブを投与しようものなら、国民皆保険制度は成り立たなくなるでしょう。

販売が開始されたとしても、対象患者をかなり絞らざるを得ません。

アデュカヌマブの作用機序からしても、MCIか初期の認知症でしか適応にはならないでしょう。

アルツハイマー病が進行すると、Aβが蓄積するだけでなく、神経原線維変化や細胞死が進行します。その段階で抗体によりAβを除去できても、回復は見込めません。

アデュカヌマブは進行したアルツハイマー病には効かないのです。

そしてMCIや初期に投与したとしても、研究結果を見る限り、せいぜい進行を遅らせる程度のようです。

以上より、仮に日本でも承認され、その後承認が取り消されることがなかったとしても、

アデュカヌマブは、夢の治療薬とはほど遠い

と思います。

自由診療として用いられるか、よほど対象者を絞った上で保険適応となるかといったところです。



投資家視点から

さて、FDAによるアデュカヌマブの認可を受け、6月7日のバイオジェンの株価は+38.3%と急騰しました。

翌6月8日のエーザイの株価はストップ高となりました。

中には飛びついたイナゴ投資家もいるでしょう。

しかし、個人的にはお勧めしません。

米国でも追加試験の結果によっては、承認が取り消される可能性があります。また日本では認可されない可能性もあります。

また効果が認められても、予期せぬ副作用が多発してリスクの方が高いと判断され、販売中止になるケースもあるのです。

アデュカヌマブが夢だったとわかり、投資家が投げ売りに走れば、株価が暴落する恐れがあります。

製薬会社へのイナゴはハイリスクであることを理解し、やるとしても少額にとどめておくべきでしょう。

また、製薬会社は多額の研究費をかけて抗Aβ抗体の開発を目指しましたが、今のところことごとく失敗に終わっています。

創薬が成功するのは3万分の1とも言われます。

成功すれば独占的な利益を得られる可能性がある一方、販売にこぎつけることができなければ巨額の研究費を一切回収できない、そんなハイリスクハイリターンの世界なのです。

創薬は一種の博打であり、宝くじを買うようなものなのです。

私なら個別の製薬企業の株に投資するより、ヘルスケアのETFにより分散投資をすることをお勧めします。



終わりに

今回はアデュカヌマブについて取り上げました。

今でも世界のあちこちで、認知症治療につながる基礎研究がなされています。

臨床研究も計画、実施されています。最近ドナネマブ(donanemab)という抗Aβ抗体の治験の結果が発表されました。

しかし効果は、iADRSというアルツハイマー病のスコア低下を少し遅らせる程度に止まりました。

私自身日々高齢者の診察に当たる一医師として、認知症患者が抱える多数の疾患的問題、経済的問題、社会的問題を多く見てきました。

しかし残念ながら、私が生きている間には、人類が認知症を克服することはできないと思います。

認知症の最大のリスクファクターは加齢です。

どんなに高学歴で、どんなに生活習慣に気をつけていても、年をとれば認知症になる可能性は誰にでもあるのです。私とて例外ではありません。

そのことは多くの人に知っていただきたいです。

そして、認知症治療を取り巻く状況をこれからも見守っていきたいと思います。

皆様の応援が励みになります。
1日1回、クリック(↓)をよろしくお願いします。

にほんブログ村 株ブログ 米国株へ
にほんブログ村

ABOUT ME
カガミル
理三→東大医学部卒の医師です。 息子が二人います。 子育て、教育、東大医学部/医療、投資について発信します。

POSTED COMMENT

  1. でんぼ より:

    タイムリーな記事をありがとうございました。
    医師の見地からの新薬とアルツハイマーに対する考察がとても理解しやすく、読みやすい内容で大変参考になりました。また、現代の医学でどこまで出来るのかも教えて下さり大変勉強になりました。
    この記事を仕上げるのはお手間かかった事と存じますが、お陰様で、イナゴの私にも大変よく理解できました。(自己責任でソッコー売却しました。)
    これからも応援しています。
    ありがとうございました。

    • カガミル より:

      お読みいただきありがとうございます。励みになります。
      エーザイ株はストップ高の後下落、また上昇となりましたが、今後どうなるかわかりませんね。バイオへのイナゴはお気をつけください。

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA